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土木・建設
 
【発明の名称】ダブル配筋用スペーサ
【出願人】
【識別番号】502232989
【氏名又は名称】有限会社大場スチール
【住所又は居所】愛知県豊橋市大岩町字南町裏166番地
【代理人】
【弁理士】
【識別番号】100076048
【氏名又は名称】山本 喜幾
【発明者】
【氏名】大場 太
【住所又は居所】愛知県豊橋市大岩町字南町裏166番地 有限会社大場スチール内
【要約】
【課題】
鉄筋の結束の手間を低減する。
【解決手段】
ダブル配筋用スペーサ20は、下端筋12を床面から所定間隔で支持する下部スペーサ22と、該下部スペーサ22の上部に被着し、上端筋14を該下端筋12から所定間隔で支持する上部アダプタ42から構成される。下部スペーサ22は中空体からなり、その上端面に略90度の中心角で凹設された4つの切込み部26aで第1凹溝26が形成される。上部アダプタ42は、下部スペーサ22に被着可能な中空体からなり、上部アダプタ42の下端面に略90度の中心角で凹設された4つの切込み部46aで第2凹溝46が形成される。また上部アダプタ42には、その上端面に略90度の中心角で凹設された4つの切込み部48aからなる第3凹溝48が形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状に交差させた複数の鉄筋(10,10)を、コンクリートを打設すべき床面から上下の関係で保持するダブル配筋用スペーサであって、
前記床面に載置され、下側に位置する鉄筋(10,10)の交差部(10a)を受容する第1凹溝(26)を上端に開設した下部スペーサ(22)と、
前記下部スペーサ(22)に上方から被着可能であって、前記下側に位置する鉄筋(10,10)の交差部(10a)を受容する第2凹溝(46)が下端に開設されると共に、上側に位置する鉄筋(10,10)の交差部(10a)を受容する第3凹溝(48)を上端に開設した上部アダプタ(42)とから構成した
ことを特徴とするダブル配筋用スペーサ。
【請求項2】
前記下部スペーサ(22)は中空体からなり、前記第1凹溝(26)は、該下部スペーサ(22)の上端面に略90度の中心角で凹設した4つの切込み部(26a)からなる請求項1記載のダブル配筋用スペーサ。
【請求項3】
前記上部アダプタ(42)は、前記下部スペーサ(22)に被着可能な中空体からなり、前記第2凹溝(46)は、該上部アダプタ(42)の下端面に略90度の中心角で凹設した4つの切込み部(46a)からなる請求項2記載のダブル配筋用スペーサ。
【請求項4】
前記第3凹溝(48)は、前記上部アダプタ(42)の上端面に略90度の中心角で凹設した4つの切込み部(48a)からなる請求項3記載のダブル配筋用スペーサ。
【請求項5】
前記第1凹溝〜第3凹溝(26,46,48)を構成する各切込み部(26a,46a,48a)の幅は、1本の鉄筋(10)を強制的に嵌入させ得る寸法に設定されている請求項4記載のダブル配筋用スペーサ。
【請求項6】
前記第1凹溝〜第3凹溝(26,46,48)を構成する各切込み部(26a,46a,48a)の深さは、上下2本の鉄筋(10,10)を収容し得る寸法以上に設定されている請求項5記載のダブル配筋用スペーサ。
【請求項7】
前記第1凹溝〜第3凹溝(26,46,48)を構成する各切込み部(26a,46a,48a)には、各鉄筋(10)を嵌入させる方向にオフセットして指向するセレーション(27,47,49)が形成されている請求項6記載のダブル配筋用スペーサ。
【請求項8】
前記第1凹溝(26)を構成する4つの切込み部(26a)の夫々に、前記下部スペーサ(22)の下方へ延在する長溝(28)を設け、所要の配筋ピッチに合わせた寸法の棒状部材(30)の両端部を、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサ(22)の前記長溝(28)に対応的に嵌合させて、格子状に配筋される鉄筋(10,10)の交点割出しを行なうようにした請求項2記載のダブル配筋用スペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、格子状に交差させた複数の鉄筋を、コンクリートを打設すべき床面から上下の関係で保持するダブル配筋用スペーサに関するものである。
【背景技術】
型枠内で格子状に交差させて所定の間隔で配筋した鉄筋を、スペーサで支持して床面から所定間隔だけ離間させ、前記型枠内にコンクリートを流し込むことで得られる鉄筋コンクリートは、建築物や土木構造物等の構造体として広く用いられている。前記鉄筋コンクリートは、引張応力に劣るコンクリートを引張応力に優れた鉄筋で補強し、通常の状態では錆易い鉄筋をアルカリ性のコンクリート中に保持することで、鉄筋の錆による強度の低下を防止する補完関係にある。また、鉄筋コンクリートによる構造体は、この構造体に作用する圧縮方向の応力をコンクリートが受け持つと共に、剪断方向または引張方向の応力を鉄筋が受け持つことで堅固で、かつ長期間に亘って強度の低下が抑えられた構造体を得ることができる。
前記鉄筋コンクリートにおいて、コンクリート表面からコンクリート中の所定の位置にスペーサで保持された鉄筋の表面までの間隔のことを、鉄筋の「かぶり厚さ」と云う。この鉄筋のかぶり厚さが足らない場合、鉄筋表面からコンクリートが剥離し易くなると共に、この剥離等により生じたひびから水分が浸入し、鉄筋が錆てしまうことがある。また、前記鉄筋コンクリートのコンクリート部分は、空気中の二酸化炭素や酸性雨のため外表面から経時的に中性化して、鉄筋に錆が生じ易くなってしまう。そこで、前記鉄筋コンクリートにおいて、配筋された鉄筋をスペーサで支持することで、該鉄筋をコンクリート中の所定の位置に保持し、所定のかぶり厚さに保つことは大変重要なことである。
また、前記鉄筋コンクリートにおいて、前記鉄筋は、X方向またはY方向に隣接して配筋された鉄筋同士の距離が、設計により規定された間隔になるように配筋される。すなわち、ある鉄筋間の間隔が狭まることは、その隣りの鉄筋間の間隔が広くなり、この広くなった部分の鉄筋コンクリート構造体は、設計通りの強度を示さないことになる。そこで、前記鉄筋コンクリートでは、構造体としての強度を保つため、コンクリート中に配置される鉄筋が、設計通りの間隔で配筋される必要がある。前記鉄筋コンクリートは、格子状に配筋した鉄筋を上下の関係で2重に重ね合わせた所謂ダブル配筋とすることで、鉄筋コンクリート構造体の強度を向上させることができる。なお配筋の手間を省くため、予め工場等において、鉄筋を一定間隔で格子状に溶接した溶接鉄筋もある。
図7に示すように、一般的な配筋作業は、墨出し用に打設された捨てコンクリートまたは堰板等の上(床面)に、X方向およびY方向の要所の鉄筋10に、他の鉄筋10を配置する基準となる目印を記すピッチ割りを行ない(目印を付けられた鉄筋10はピッチ筋と云う)、ピッチ筋を基準としてX−Y方向に複数の鉄筋10を所定間隔で配筋することで、格子状に交差した複数の鉄筋10からなる下側に位置する下端筋12が形成される。前記下端筋12を構成する鉄筋10,10の交差部10aは、図示しない結束線と呼ばれる細い金属線で緊結されて、上下段違いの鉄筋10,10を固定している。また、モルタル等をサイコロ状に形成したスペーサ16が所定間隔で下端筋12の下に設置され、該下端筋16は床面から所定間隔だけ離間した状態で該スペーサ16により支持されている。そして、前記下端筋12の配筋作業の完了後に、続いて前記下端筋12の上方に位置する上端筋14の配筋作業が行なわれる。すなわち、下端筋12と同様にピッチ割り作業を行ない、ピッチ筋を基準としてX−Y方向に複数の鉄筋10を所定間隔で配筋することで、格子状に交差した複数の鉄筋10からなる上側に位置する上端筋14が形成される。前記上端筋14を構成する鉄筋10,10の交差部10aは、前記下端筋12と同様に結束線で緊結される。そして、鉄筋等を折曲して台形状に形成した別のスペーサ18が、前記上端筋14の下に設置され、該上端筋14は床面から所定間隔だけ離間した状態で該スペーサ18で支持されると共に、前記下端筋12とは上下の関係で所定間隔だけ離間するように構成される。
前記下端筋12および上端筋14を、別々のスペーサ16,18で夫々異なる位置で支持する構造であるため、鉄筋コンクリート構造体の下面に該スペーサ16,18の底部が多く露出してしまい見苦しくなっていた。そこで、下端筋12および上端筋14を同一位置で支持するスペーサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、煩雑で手間が掛かる鉄筋のピッチ割り作業を軽減するため、帯板状の保持部材に一定間隔で凹部を設け、該凹部に鉄筋を嵌合することで鉄筋を位置決めする鉄筋保持装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】
特開平11−217906号公報
【特許文献2】
特開平9−13399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
図7に示したスペーサ16,18は、鉄筋10を単に載置面に載せる構造であって固定されていないため、バイブレータを用いてコンクリートを敷き固める際の振動や、コンクリート打設の際の流動圧によって鉄筋10に対する前記スペーサ16,18の位置がずれてしまい、所定のかぶり厚さが維持できないことが懸念される。ところで、特許文献1および2に開示されたスペーサにおいて、前記鉄筋の移動規制構造は、単に溝に挿入する構成であるため、左右方向には移動を規制するが、上下方向には鉄筋の移動は規制されず、上端筋の配筋作業、鉄筋コンクリートの中に打ち込まれる電気配管等の配管作業やコンクリートの打設作業等、該鉄筋の上を作業者が移動する際に、該スペーサから鉄筋がはずれてしまう問題が解消されない。また、特許文献1に開示されたスペーサは、上下段違いに交差した鉄筋における下側の鉄筋のみ、溝に挿入することで左右方向の移動を規制する構成であり、交差した鉄筋の双方を移動規制するものではない。すなわち、スペーサに載置した鉄筋の交差部分を結束線で固定することが必要であり、煩雑な鉄筋結束作業の手間を低減できない難点が指摘される。
また、配筋工程において、配筋のピッチ割り作業の手間をなくすため、格子状に予め溶接された溶接鉄筋を用いることもできる。しかし、前記溶接鉄筋は、配筋現場ではなく工場において製造され、しかも嵩張るので輸送コストがかかると共に、複雑な形状をした部位の配筋においては歩留まりが悪く、これがコストの増加を招く問題となる。また前記溶接鉄筋は、鉄筋の交差部分の接続を電気溶接で行なっているため、溶接された部分が錆易い欠点もある。
すなわちこの発明は、前述した従来のダブル配筋用スペーサに内在している前記問題に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、鉄筋の結束の手間を省くと共に、配筋のピッチ割り作業を容易に行ない得るダブル配筋用スペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るダブル配筋用スペーサは、
格子状に交差させた複数の鉄筋を、コンクリートを打設すべき床面から上下の関係で保持するダブル配筋用スペーサであって、
前記床面に載置され、下側に位置する鉄筋の交差部を受容する第1凹溝を上端に開設した下部スペーサと、
前記下部スペーサに上方から被着可能であって、前記下側に位置する鉄筋の交差部を受容する第2凹溝が下端に開設されると共に、上側に位置する鉄筋の交差部を受容する第3凹溝を上端に開設した上部アダプタとから構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
本発明に係るダブル配筋用スペーサによれば、下側に位置する鉄筋を保持する第1凹溝を備えた下部スペーサの上に、下側に位置する鉄筋を保持する第2凹溝および上側に位置する鉄筋を保持する第3凹溝を備えた上部アダプタを被着し、下端筋を下部スペーサと上部アダプタとで挟持する構成としたから、鉄筋コンクリート構造体の下面にスペーサの底部が露出することが減少すると共に、下側に位置する鉄筋の結束作業を軽減し、鉄筋のずれを防止することができる。また、前記第1凹溝〜第3凹溝を構成する各切込み部の幅が、1本の鉄筋を強制的に嵌入させ得る寸法に設定されているため、鉄筋がずれにくくなっている。更に、前記第1凹溝〜第3凹溝を構成する各切込み部の深さを、上下2本の鉄筋を収容し得る寸法以上に設定することで、鉄筋がはずれ難くなるため、鉄筋の交差部を結束する必要がなくなり、上側に位置する鉄筋の結束作業の手間を軽減することができる。更にまた、前記第1凹溝〜第3凹溝を構成する各切込み部に、各鉄筋を嵌入させる方向にオフセットして指向するセレーションを形成することで、スペーサから鉄筋が更にはずれ難くなり、鉄筋のずれを防止し得る。
所要の配筋ピッチに合わせた寸法の棒状部材の両端部を、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサに形成した長溝に対応的に嵌合させるよう構成したので、格子状に配筋される鉄筋の交点を容易に割出すことができ、煩雑な配筋のピッチ割り作業の手間を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
ダブル配筋用スペーサは、下端筋を保持する第1凹溝を備えた下部スペーサに、第2凹溝および第3凹溝を備えた上部アダプタを上方から被着し、該第3凹溝に上端筋を保持するよう構成する。また、下部スペーサに形成した長溝に、所要の配筋ピッチに合わせた寸法の棒状部材の両端部を、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサの長溝に対応的に嵌合させて、格子状に配筋される鉄筋の交点割出しを行なうよう構成する。
【実施例1】
次に、本発明に係るダブル配筋用スペーサにつき、好適な実施例を挙げて以下に説明する。図1に示すように、ダブル配筋用スペーサ20は、下端筋12を床面から所定間隔で支持する下部スペーサ22と、該下部スペーサ22の上部に被着し、上端筋14を該下端筋12から所定間隔で支持する上部アダプタ42から基本的に構成されている。ここで、下端筋12とは、上下の関係で保持された格子状に交差された複数の鉄筋(ダブル配筋)において、下側に位置する鉄筋群を云い、これに対し上端筋14とは、前記下端筋12の上方に所定間隔離間して位置する鉄筋群を指す。
図1または図2に示すように、前記下部スペーサ22は、両端が開放した円筒形の中空体であって、一端部(下端)を外方に向けて折曲したラッパ状のフランジ部25を設けた短尺のパイプを本体部24とし、例えば金属または樹脂等の材料が採用される。そして、前記本体部24の他端部(上端)には、下端筋12を構成する鉄筋10,10の交差部10aを受容する第1凹溝26が開設されている。この第1凹溝26は、前記本体部24の上端面から前記フランジ部25が形成された下端面に向けて、略90度の中心角で凹設した4つの切込み部26aから構成され、各切込み部26aの幅は、1本の鉄筋10を強制的に嵌入させ得る寸法に設定されている。また、前記切込み部26aの深さ(下部スペーサ22の上端面から切込み部26aの底部までの寸法)は、上下方向に段違いに交差された2本の鉄筋10,10を収容し得る寸法以上に設定されている。なお、設計強度または配筋部位等により採用される鉄筋10の直径は異なるので、対象とする鉄筋10の直径に合わせて各切込み部26aの幅および深さが調整される。そして、前記第1凹溝26において、X方向に対向する切込み部26a,26aに亘って一方の鉄筋10が嵌入されると共に、Y方向に対向する切込み部26a,26aに亘って他方の鉄筋10が嵌入されて、上下方向に段違いに組み合わせられた鉄筋10,10の交差部10aが、前記下部スペーサ22の第1凹溝26に挟持されて前記下端筋12が形成される。
前記下部スペーサ22は、図1(a)に示すように、保持した下端筋12を前記本体部24の下端面から前記各切込み部26aの底部までの距離分だけ床面より離間して支持するよう構成されている。ところで、前記下端筋12において、上下段違いに交差した鉄筋10,10における下側の鉄筋10と床面とがなすかぶり厚さは、使用部位等により建築基準法または仕様書等で規定される。従って、前記下部スペーサ22では、下端筋12のかぶり厚さを前記本体部24の下端面と各切込み部26aの底部との距離(前記本体部24の寸法)を調整することで、使用部位等に合わせて好適に設定される。
また、前記下部スペーサ22の本体部24において、凹設された前記第1凹溝26の各切込み部26aに臨む両側壁部には、各鉄筋10を嵌入させる方向にオフセットして指向するセレーション27が形成されている。前記セレーション27は、前記両側壁部に各切込み部26aの内方に向けて突設された複数の突片27aからなり、各突片27aは、該側壁部の上下方向に亘って形成されて鋸歯状になっている。前記突片27aは、略直角三角形状であって、その略直角三角形状の直角部分が該側壁部に臨むと共に、斜辺が上方に臨み、該突片27aの先端部が下方に偏倚した状態になっている。
前記上部アダプタ42は、両端が開放した円筒形の中空体であって、前記下部スペーサ22の上方から同軸的に被着可能に形成された短尺のパイプを本体部44とし、例えば金属または樹脂等の材料が採用される。前記本体部44の下端には、前記下端筋12を構成する鉄筋10,10の交差部10aを受容する第2凹溝46が開設されると共に、該本体部44の上端には上端筋14を構成する鉄筋10,10の交差部10aを受容する第3凹溝48が開設されている。前記第2凹溝46は、前記本体部44の下端面から上方に向けて、略90度の中心角で凹設した4つの切込み部46aからなり、前記第3凹溝48は、前記本体部44の上端面から下方に向けて、略90度の中心角で凹設した4つの切込み部48aから構成されている。前記第2凹溝46の各切込み部46aおよび第3凹溝48の各切込み部48aは、上下対称に位置するよう凹設される。また、各切込み部46a,48aの幅は、1本の鉄筋10を強制的に嵌入させ得る寸法に設定されている。更に、前記各切込み部46a,48aの深さは、上下方向に段違いに交差された2本の鉄筋10,10を収容し得る寸法以上に設定してある。前記第2凹溝46の切込み部46aの深さは、上部アダプタ42における本体部44の下端面から切込み部46aの底部までの寸法であり、前記第3凹溝48の切込み部48aの深さは、上部アダプタ42における本体部44の上端面から切込み部48aの底部までの寸法である。なお、設計強度または配筋部位等により採用される鉄筋10の直径は異なるので、前記下部スペーサ22の切込み部26aと同様に、対象とする鉄筋10の直径に合わせて各切込み部46a,48aの幅および深さを調整している。
前記上部アダプタ42は、図1(b)に示すように、下端筋12を保持した下部スペーサ22に外挿すると共に、前記下端筋12に第2凹溝46を構成する各切込み部46aを嵌入して、この各切込み部46aと前記第1凹溝26の各切込み部26aとで鉄筋10,10の交差部10aを挟持した状態で該下部スペーサ22に載置される。そして、前記第3凹溝48のY方向に対向する切込み部48a,48aに亘って一方の鉄筋10が嵌入されると共に、X方向に対向する切込み部48a,48aに亘って他方の鉄筋10が嵌入されて、上下方向に段違いに交差された鉄筋10,10の交差部10aが、前記上部アダプタ42の第3凹溝48に挟持されて上端筋14が形成されるようになっている。
前記上部アダプタ42に保持された上端筋14は、上下段違いに交差した鉄筋10,10における上側の鉄筋10と鉄筋コンクリートの仕上げ面とがなすかぶり厚さが、前記下端筋12からの距離により規定される。従って、前記上部アダプタ42における本体部44の軸方向の寸法を調整することで、好適なかぶり厚となるように設定されている。
また、前記上部アダプタ42の本体部44において、凹設された前記第2凹溝46および第3凹溝48の各切込み部46a,48aに臨む両側壁部には、各鉄筋10を嵌入させる方向にオフセットして指向するセレーション47,49が形成されている。前記セレーション47,49は、前記第1凹溝26に形成したものと同様に、前記両側壁部に各切込み部46a,48aの内方に向けて突設された複数の突片47a,49aからなり、各突片47a,49aは、該側壁部の上下方向に亘って形成されて鋸歯状になっている。前記第2凹溝46に形成される突片47aは、略直角三角形状であって、その略直角三角形状の直角部分が該側壁部に臨むと共に、斜辺が下方に臨み、すなわち先端部が上方に偏倚した状態に形成されている。これに対し、前記第3凹溝48に形成される突片49aは、略直角三角形状であって、その略直角三角形状の直角部分が該側壁部に臨むと共に、斜辺が上方に臨み、すなわち先端部が下方に偏倚した状態に形成されている。前記第3凹溝48のセレーション49は、前記第2凹溝46のセレーション47と対称に形成されている。
前記下部スペーサ22に開設された第1凹溝26における各切込み部26aの底部には、その切込み部26aの幅寸法より小さく設定されて、更に下方に向けて凹設された長溝28が形成されている。そして、所要の配筋ピッチに合わせた寸法に設定された棒状部材30が、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサ22の前記長溝28に対応的に嵌合されるよう構成されている(図3参照)。前記棒状部材30は、金属製の丸棒であって、その両端部には、各端面から所要間隔離間した部位に全周に亘って溝状の係止部30a,30aが凹設され、該係止部30aを前記下部スペーサ22の長溝28に嵌入させて、隣り合う下部スペーサ22,22を水平方向に所定間隔だけ離間した状態で保持するようになっている。
次に、実施例1に係るダブル配筋用スペーサの作用について説明する。そこで、実施例1のスペーサを利用した鉄筋の配筋作業について簡単に説明する。先ず、前記下部スペーサ22を、そのフランジ部25を下方にして床面の所要位置に載置し(図4(a)参照)、上端に開設された第1凹溝26におけるX方向に対向する切込み部26a,26aに一方の鉄筋10を強制嵌入させて固定する。次に、前記第1凹溝26におけるY方向に対向する切込み部26a,26aに他方の鉄筋10を強制嵌入することで、上下に段違いで組み合わされた2本の鉄筋10,10の交差部10aの移動を規制すると共に、床面から所定のかぶり厚さで該交差部10aを保持する(図4(b)参照)。この作業を所要の配筋ピッチに合わせて設定された下部スペーサ22の設置位置で夫々行なうことで、鉄筋10,10が格子状に配筋されて下端筋12が形成される。そして、前記下端筋12が第1凹溝26に受容された下部スペーサ22に、前記上部アダプタ42における第2凹溝46の各切込み部46aを第1凹溝26の各切込み部26aに整合させた状態で、上方から同軸的に被着することで、下端筋12を構成する鉄筋10,10が第2凹溝46の各切込み部46aに強制嵌入される(図4(c)参照)。最後に、前記上部アダプタ42の上端に開設された第3凹溝48において、Y方向に対向する切込み部48a,48aに一方の鉄筋10を強制嵌入させて固定する。そして、X方向に対向する切込み部48a,48aに他方の鉄筋10を強制嵌入することで、上下に段違いで組み合わされた2本の鉄筋10,10の交差部10aの移動を規制すると共に、床面から所定の高さで該交差部10aを保持する(図4(d)参照)。この作業を前記下部スペーサ22について夫々行なうことで、鉄筋10,10が格子状に配筋された上端筋14が、前記下端筋12の上方に所定間隔だけ離間した状態で形成され、該上端筋14を構成する鉄筋10,10とコンクリートの仕上げ面とのなすかぶり厚さは適切に保持される(図3参照)。
また、前記下端筋12の配筋作業において、X方向またはY方向に隣り合う鉄筋10,10のピッチ割り作業は以下の通りに行なわれる。図3に示すように、床面に載置した前記下部スペーサ22の第1凹溝26に前記下端筋12を嵌入させるに先立って、該下部スペーサ22の長溝28に棒状部材30の一端に形成された係止部30aを嵌合し、次いで他端に形成された係止部30aを別の下部スペーサ22の長溝28に嵌合し、隣接する下部スペーサ22,22の間に該棒状部材30を掛け渡す。これにより、隣接した一対の下部スペーサ22,22は、前記棒状部材30の寸法分だけ離間した状態で配置される。そして、前記下部スペーサ22のX方向またはY方向に隣接して、別の下部スペーサ22が配置されるように各長溝28に夫々棒状部材30を嵌入することで、碁盤目状に一定間隔で各下部スペーサ22が設置される。すなわち、前記棒状部材30は、所定の配筋ピッチに合わせた寸法(実施例では3ピッチ分)に設定されているので、各下部スペーサ22は鉄筋10,10の交差部10aに位置することになる。従って、各下部スペーサ22に鉄筋10,10を嵌入することで、所定の配筋ピッチ(実施例では3ピッチ分)に合わせて配筋されることになる。そして、前記下部スペーサ22,22の間に所定数の鉄筋10を割り振ることで、下端筋12が形成される。このように、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサ22,22の離間間隔を前記棒状部材30で規定することで、格子状に配筋される鉄筋10の交点割出しの手間を省くことができる。なお、予め前記棒状部材30に配筋ピッチに合わせて目印を設けておくことで、更に配筋作業を容易に行なうことができる。
また、前記ダブル配筋用スペーサ20の配置数は、建築基準法または仕様書等で面積当たりの最低配置数が定められている。すなわち、前記棒状部材30の寸法を、最低配置数を満たすような配筋ピッチ数に合わせて設定することで、必然的に前記ダブル配筋用スペーサ20の配置数を満たすようになり、該スペーサ20の配置間隔を管理する手間が軽減することになる。
なお、前記棒状部材30を、配筋1ピッチ分に設定することで、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサ22,22は、1ピッチ分離間して配置された状態になり、該下部スペーサ22,22に保持された隣り合う鉄筋10,10は設計通りの間隔で離間することになる。従って、前記配筋のピッチ割り作業の手間を更に軽減することができると共に、隣り合う鉄筋10,10は確実に所定の間隔に保持されるので、要求される設計強度を確実に満たすことができる。
実施例1のダブル配筋用スペーサ20は、前記下端筋12を第1凹溝26に受容した下部スペーサ22の上に上部アダプタ42を被着し、該上部アダプタ42の第3凹溝48に上端筋14を受容することで、該下端筋12および上端筋14を上下の関係で保持する構成である。すなわち、上端筋14を保持する上部アダプタ42は、前記下端筋12を保持する下部スペーサ22と同一の位置に設けられると共に、下部スペーサ22に被着しているため、床スラブ等の鉄筋コンクリート構造体の下面に露出する前記ダブル配筋用スペーサ20の底部部分を少なくすることができる。また、前記下部スペーサ22の第1凹溝26に受容された下端筋12を、前記上部アダプタ42の下端に開設された第2凹溝46で受容するように該上部アダプタ42が被着されているので、該下端筋12は第1凹溝26と第2凹溝46とで挟持される。すなわち、前記下端筋12は、ダブル配筋用スペーサ20で左右方向だけでなく上下方向の移動も規制されているため、鉄筋10,10の交差部10aを結束する必要がなくなり、煩雑な結束作業の手間を軽減することができる。そして、上端筋14の配筋作業や、バイブレータを用いてコンクリートを敷き固める際の振動や、コンクリート打設の際の流動圧等が下端筋12に負荷として作用した際にも、下端筋12が前記ダブル配筋用スペーサ20からずれることなく、適切なかぶり厚さを保つことができる。
前記第1〜第3凹溝26,46,48を構成する各切込み部26a,46a,48aの幅を、1本の鉄筋10を強制的に嵌入させ得る寸法に設定することで、左右方向の移動を規制すると共に、上下方向の移動も困難にしている。また、前記第1〜第3凹溝26,46,48を構成する各切込み部26a,46a,48aの深さを、上下2本の鉄筋10,10を収容し得る寸法に設定することで、下端筋12および上端筋14における上下段違いに交差した鉄筋10,10の双方の移動を規制することができる。更に、前記各切込み部26a,46a,48aに、各鉄筋10を嵌入させる方向にオフセットして指向するセレーションを形成することで、鉄筋10を該切込み部26a,46a,48aへ嵌入するに際し、該鉄筋10は前記セレーション27,47,49の突片27a,47a,49aの斜辺に沿って強制嵌入し得る。これに対し、前記鉄筋10を前記第1〜第3凹溝26,46,48から取り外す際には、前記セレーション27,47,49を構成する突片27a,47a,49aの鉄筋10と水平に対向している辺が該鉄筋10に引っかかり、鉄筋10の上方への移動が規制される。従って、上方が開放した第3凹溝48を構成する各切込み部48aに嵌入された上端筋14は、コンクリートの流動圧等の負荷がかかった場合でも、該上端筋14がスペーサ20からはずれることなく、適切なかぶり厚さを保つことができる。このように、前記下部スペーサ22および上部アダプタ42に受容された鉄筋10,10の交差部10aは、上下段違いの鉄筋10,10の双方が左右方向だけではなく、上下方向にも移動が規制されているため、該交差部10aの結束を省略することができ、煩雑な結束作業の手間を軽減し得る。
【実施例2】
図5は、実施例2に係るダブル配筋用スペーサ50を示すものであって、その構成は、前述した実施例1に係るダブル配筋用スペーサ20と基本的に同じであるので、同一の要素の説明は省略する。下部スペーサ52は、両端が開放した角筒形の中空体であって、一端部(下端)に脚部58を設けた本体部54が、例えば樹脂を材料として形成されている。そして、前記本体部54の他端部(上端)には、下端筋12を構成する鉄筋10,10の交差部10aを受容する第1凹溝56が開設されている。また、上部アダプタ62は、両端が開放した角筒形の中空体であって、前記下部スペーサ52の上方から内挿可能に形成された本体部64が、例えば樹脂を材料として形成されている。前記本体部64の下端には、前記下端筋12を構成する鉄筋10,10の交差部10aを受容する第2凹溝66が開設されると共に、該本体部64の上端には上端筋14を構成する鉄筋10,10の交差部10aを受容する第3凹溝68が開設されている。前記第1〜第3凹溝56,66,68の各切込み部56a,66a,68aの構成は、実施例1の構成と同じであるので説明は省略する。そして、実施例2に係るダブル配筋用スペーサ50は、実施例1のダブル配筋用スペーサ20で説明した作用効果の他に、前記下部スペーサ52に脚部58を設けることで、コンクリートがより本体部54の内部に回り込み易くなり空気溜りができ難くなる。また、図示していないが、前記第1凹溝56を構成する4つの切込み部56aの夫々に、前記下部スペーサ52の下方へ延在する長溝を設け、所要の配筋ピッチに合わせた寸法の棒状部材の両端部を、X方向またはY方向に隣接する各下部スペーサ52の前記長溝に対応的に嵌合させて、格子状に配筋される各鉄筋10の交点割出しを行なうようにする構成も採用し得る。
【実施例3】
実施例1では、ダブル配筋において、X方向またはY方向に隣接する下部スペーサ22,22の間を棒状部材30を掛け渡すことで、格子状に配筋される鉄筋10の交点割出しを行なうようにしたが、シングル配筋にあっても採用することができる。すなわち、図6に示すように、床面に載置した前記下部スペーサ22の第1凹溝26に前記下端筋12を嵌入させるに先立って、該下部スペーサ22の長溝28に棒状部材30の一端に形成された係止部30aを嵌合し、次いで他端に形成された係止部30aを別の下部スペーサ22の長溝28に嵌合し、隣接する下部スペーサ22,22の間に該棒状部材30に掛け渡す。これにより、隣接した一対の下部スペーサ22,22は、前記棒状部材30の寸法分だけ離間した状態で配置される。そして、前記下部スペーサ22のX方向またはY方向に隣接して、別の下部スペーサ22が配置されるように各長溝28に夫々棒状部材30を嵌入することで、碁盤目状に一定間隔で各下部スペーサ22が設置される。そして、前記第1凹溝26におけるX方向に対向する切込み部26a,26aに一方の鉄筋10を強制嵌入させて固定し、Y方向に対向する切込み部26a,26aに他方の鉄筋10を強制嵌入することで、上下に段違いで組み合わされた2本の鉄筋10,10の交差部10aの移動を規制すると共に、床面から所定のかぶり厚さで該交差部10aが保持される。このように、シングル配筋においても、隣接する下部スペーサ22,22間に棒状部材30を掛け渡すことで、格子状に配筋される鉄筋10の交点割出しを容易に実施でき、配筋のピッチ割り作業の手間を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な実施例1に係るダブル配筋用スペーサを示し、(a)は分離状態を示す正面図であり、(b)は使用状態を示す正面図である。
【図2】実施例1のダブル配筋用スペーサを示す概略斜視図である。
【図3】実施例1のダブル配筋用スペーサの使用状態を示す概略斜視図である。
【図4】実施例1のダブル配筋用スペーサの組み立て工程を示す概略斜視図である。
【図5】実施例2に係るダブル配筋用スペーサを示し、(a)は分離状態を示す概略斜視図であり、(b)は使用状態を示す概略斜視図である
【図6】実施例3に係る下部スペーサの使用状態を示す概略斜視図である
【図7】従来のスペーサの使用状態を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
10 鉄筋
10a 交差部
22 下部スペーサ
26 第1凹溝
26a 切込み部
27 セレーション
28 長溝
30 棒状部材
42 上部アダプタ
46 第2凹溝
46a 切込み部
48 第3凹溝
47 セレーション
48a 切込み部
49 セレーション
【図1】
図1
【図2】
図2
【図3】
図3
【図4】
図4
【図5】
図5
【図6】
図6
【図7】
図7
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