閉じる
 
【発明の名称】音像制御方法
【出願人】
【識別番号】518424464
【氏名又は名称】堀江 利彦
【住所又は居所】東京都多摩市諏訪1-15-4
【代理人】
【識別番号】100094617
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 正浩
【発明者】
【氏名】堀江 利彦
【住所又は居所】東京都多摩市諏訪1-15-4
【要約】
【課題】ヘッドホンの音像解像度を向上させる。
【解決手段】ヘッドホン・スピーカーの耳介後方に対応する位置から放射されて耳介に向かう後方音S1を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させ、この反射させた後方音を、ヘッドホン・スピーカーの耳介前方に対応する位置から放射され、耳介から遠ざかる前方離散音S2と共に反射させ、耳介前方から耳介に向かう反射前方音S3として耳介に到達させる。あるいは、ヘッドホン・スピーカーの耳介後方に対応する位置から放射されて耳介に向かう後方音S1を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させ、ダイヤフラムの中央部から放射されて耳介に向かう中央音S4、及びダイヤフラムの耳介前方に対応する位置から放射されて耳介に向かう放射前方音S5は直接的に耳介に導く、ことを特徴とする。
【選択図】図1
音像制御方法 選択図
音像制御方法 パンフレット1
音像制御方法 パンフレット2
音像制御方法 パンフレット3
音像制御方法 パンフレット4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御する音像制御方法であって、
前記ヘッドホン・スピーカーにおける音放射面であるダイヤフラムの耳介後方に対応する位置から放射されて耳介に向かう後方音を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させ、
前記反射させた後方音、及び前記ダイヤフラムの耳介前方に対応する位置から放射され耳介から遠ざかる前方離散音を反射させて、耳介前方から耳介に向かう反射前方音として耳介に導く、ことを特徴とする音像制御方法。
【請求項2】
ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御する音像制御方法であって、
前記ヘッドホン・スピーカーにおける音放射面であるダイヤフラムの耳介後方に対応する位置から放射されて耳介に向かう後方音を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させ、
前記ダイヤフラムの中央部から放射されて耳介に向かう中央音、及び前記ダイヤフラムの耳介前方に対応する位置から放射されて耳介に向かう放射前方音は直接的に耳介に導く、ことを特徴とする音像制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御する音像制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドホンにおける定位技術については、例えば、特許文献1〜3に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のヘッドホンでは、音の方向を迂回(回析)させる遮音体を設けることにより、音像が頭の中央附近から外れ、自然に近い音として聞くことができるようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載のヘッドホンでは、音響放射面の前部分に音響反射板を設けた構造により、頭上での音像定位感が解消され、頭上から前方へ移動して、原音場に近い定位感、広がり感を得ることができるようにしている。
【0005】
更に、特許文献3に記載の受話器(ヘッドホン)では、放射音を耳甲介腔の対輪側領域に到達させると共に、耳甲介腔の耳珠側領域に到達させない反射部材を発音体(スピーカー)ハウジングの周の鼻側縁の一部から所定の角度で耳輪方向に斜めに立ち上げることで、前方定位を実現している。或いは、放射音を耳甲介腔の対輪側領域に到達させると共に、耳甲介腔の耳珠側領域に到達させない遮音部材を発音体ハウジング上面部に配設することで、前方定位を実現している。
【0006】
一方、非特許文献1では、結論のひとつに「音の方向定位は正面に近く最も集中的であり側方に移るにつれて拡散的になるが、左右とも斜面前方において再び集中的となる方向がある。」ことを挙げている。即ち、正面及び左右斜面前方からの音は、正確な方向認識を得るということである。
【0007】
本結論は、ステレオ・スピーカー・ユニットによるステレオ音源の再生における聴取者
と左右のスピーカーの理想的な位置関係を正三角形とすることの説明となる一方、ヘッドホンの音像が点定位しない理由を説明している。即ち、ヘッドホンにおける放射音が、音の方向定位が拡散的になる真横音であることから、スピーカーのような点定位を得られないことを説明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 実開昭53−86041号公報
【特許文献2】 実開昭58−147382号公報
【特許文献3】 特開2017−103604号公報
【非特許文献1】「音の方向定位に関する実験的研究」京都大学医学部耳鼻咽喉科学教室 水野 勲 著
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/52/11/52_11_1409/_article/-char/ja/
【非特許文献2】「正中面内における音の方向定位に関する実験」吉田究著、丸山光信著
http://www.salesio-sp.ac.jp/papers/sotsuken/2006/pdf/documents/ec/4343
.pdf#search=%27%E6%AD%A3%E4%B8%AD%E9%9D%A2%E5%86%85%
E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%9F%B3%E3%81%
AE%E6%96%B9%E5%90%91%E5%AE%9A%E4%BD%8D%E3%81%AB%E9%
96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%AE%9F%E9%A8%93%27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、ステレオ・スピーカー・ユニットでステレオ録音音源を再生する際は、聴取者と左右のスピーカーの位置関係が、正三角形とするのが理想的であるとされる。この場合、再生された各音源(楽器等)は、1点の発音、即ち点定位した音として聴取できる。
【0010】
一方、ヘッドホンには、聴取の時間や場所を問わないという利便性があるため、多く利用されている。特に、楽器演奏を愛好し、その演奏楽器を音源からコピーする者は、ヘッドホンを利用することが多い。その理由は、ステレオ・スピーカー・ユニットでの再生よりも音源に近接感を得られるためである。
【0011】
しかしながら、ヘッドホン・スピーカーの音放射面であるダイヤフラムは、聴取者の真横左右に近接して配置されるため、人間の聴力特性上、再生された各音源はスピーカーのような点定位を得られず、感覚的には滲んだものとなる。よって、ヘッドホンの再生音は、ステレオ・スピーカー・ユニットの再生音に比し、定位が甘く、解像度が劣る。
【0012】
このように、ヘッドホンは点定位しないため、ステレオ・スピーカー・ユニットに比べて音像解像の点で不満を感じつつも、利便性や近接感から使用しているというのが実態である。
【0013】
本発明者は、上記特許文献1〜3のヘッドホンを再現して試聴し、種々の音響特性に関する検討を行った。
【0014】
特許文献1のヘッドホンでは、ダイヤフラムの耳介後方位置から耳介に向かう後方音を遮蔽することにより、定位性の改善を感じたが、当該特許の技術を適用しなかった場合に比べ、高音が減衰し、感覚的には曇ったものとなった。これは、遮音された音のうち、ダイヤフラム中央から耳介に向かう中央音は高音を多く含むが、高音は中低音に比べ迂回しにくい特性があることに起因するものと推察される。
【0015】
また、特許文献2のヘッドホンでは、ダイヤフラムの耳介前方位置から前頭に向かって
放射され耳介から遠ざかる前方離散音を反射させ、耳介前方から耳介へ到達させる。このため、定位の改善を感じるが、後方音を遮蔽せず耳介に到達させているためか、点定位せず、感覚的には滲みが残った。
【0016】
更に、特許文献3については、まず、反射部材について再現してみると、前方離散音の利用により定位の改善を感じたが、特許文献1と同様に中央音を遮蔽するため、当該特許の措置を適用しなかった場合に比べ、高音が減衰し、感覚的には曇ったものとなった。
【0017】
加えて、特許文献3の遮蔽部材の再現においては、後方音を遮蔽しないためか、定位の向上が他の特許文献に比べ少なく感じられると共に、反射部材の場合と同様に中央音を遮蔽するため、高音が減衰し、感覚的には曇ったものとなった。しかも、反射部材と遮蔽部材を同時に適用した再現においては、定位性は反射部材のみを適用した場合より向上したが、高音の減衰がさらに進み、感覚的にはさらに曇ったものとなった。
【0018】
上述した様々な構造のヘッドホンの音響特性に関する検討から、従来のヘッドホンは、音質特性を維持したまま音像の点定位を得ることに関しては、必ずしも十分とは言えず、音像解像度の向上についてまだ改良の余地がある、との結論に達した。
【0019】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ヘッドホンの音像解像度を向上させることができる音像制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る音像制御方法は、ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御する音像制御方法であって、前記ヘッドホン・スピーカーにおける音放射面であるダイヤフラムの耳介後方に対応する位置から放射されて耳介に向かう後方音を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させ、前記反射させた後方音、及び前記ダイヤフラムの耳介前方に対応する位置から放射され耳介から遠ざかる前方離散音を反射させて、耳介前方から耳介に向かう反射前方音として耳介に導くことで、上述した課題を解決した。
【0021】
上記のような音像制御方法によれば、音像を定位させることができ、ヘッドホンの音像解像度を向上させることができる。
【0022】
また、本発明に係る音像制御方法は、ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御する音像制御方法であって、前記ヘッドホン・スピーカーにおける音放射面であるダイヤフラムの耳介後方に対応する位置から放射されて耳介に向かう後方音を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させ、前記ダイヤフラムの中央部から放射されて耳介に向かう中央音、及び前記ダイヤフラムの耳介前方に対応する位置から放射されて耳介に向かう放射前方音は直接的に耳介に導くことで、同じく上述した課題を解決した。
【0023】
上記のような音像制御方法によれば、ダイヤフラムから放射される高音を含む非定位音を利用して、ヘッドホンの音像解像度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の音像制御方法によれば、ヘッドホンの音像解像度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るヘッドホンについて説明するためのもので、左耳介側のヘッドホン本体におけるダイヤフラムの中心点を通る断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るヘッドホンについて説明するためのもので、左耳介側のヘッドホン本体の斜視図である。
【図3】図1に示した音像制御部の構成例を示す斜視図である。
【図4】図3の平面図、正面図、背面図、左側の断面図、及び右側面図である。
【図5】図1に示した音像制御部の他の構成例を示す斜視図である。
【図6】図1に示した音像制御部の更に他の構成例について説明するための斜視図である。
【図7】図1に示した音像制御部の別の構成例を示す斜視図である。
【図8】図1に示した音像制御部の更に別の構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0027】
図1及び図2はそれぞれ、本発明の実施形態に係るヘッドホンについて説明するためのもので、図1は左耳介側のヘッドホン本体の断面図、図2はその斜視図である。図示しないが、右耳介側のヘッドホン本体も同様な構成になっており、ヘッドバンドの両端に一対のヘッドホン本体がそれぞれスライダーを介して取り付けられている。
【0028】
図1及び図2に示すように、ヘッドホン本体1のハウジング1aには、スピーカー2が収容されている。このスピーカー2の音放射面であるダイヤフラム3は、ハウジング1aの耳介4側に配置される。イヤパッド5は、ハウジング1aの音放射面側に装着され、ヘッドホン本体1と耳介4との間に介在される。スピーカー2と耳介4との空間には、音像の定位を制御する音像制御部6が設けられている。
【0029】
音像制御部6は、外周部がスピーカー2における音放射面であるダイヤフラム3に対応する形状を有する。この音像制御部6は、ダイヤフラムの一部をドーム状に覆い、耳介の中央近傍に対応する位置から耳介の前方に至る開口部6aを有する本体6bを備える。本体6bにおける、ダイヤフラム3をドーム状に覆い、耳介後方に対応する位置が後方遮蔽板6cとして働く。反射板6dは、後方遮蔽板6cに対向して開口部6aを挟んで本体6bに立設される。後方遮蔽板6cは、ダイヤフラム3の耳介後方に対応する位置から放射されて、耳介4に向かう後方音S1を遮蔽して、耳介前方へ遠ざかるように反射させるものである。反射板6dは、後方遮蔽板6cで反射された後方音S1、及びダイヤフラム3の耳介前方に対応する位置から放射され耳介から遠ざかる前方離散音S2を反射させ、耳介前方から耳介4に向かう反射前方音S3として耳介4に導くものである。
【0030】
また、ダイヤフラム3の中央から放射され耳介4に向かう中央音S4及びダイヤフラム3の耳介前方に対応する位置から放射され耳介4に向かう放射前方音S5は、開口部6aから直接的に耳介4に導くようになっている。そして、耳介4に導かれた反射前方音S3、中央音S4及び放射前方音S5が、外耳道4aを介して鼓膜に到達する。
【0031】
音像制御部6の後方遮蔽板6cは、図3及び図4に詳しく示すように、本体6bにおける開口部6aの一部をドーム状に覆っている。また、反射板6dは、本体6bの周辺部に開口部6aを挟んで立設されている。
【0032】
一例を挙げると、イヤパッド5の開口部が、30mm×40mmの長方形の四隅を、直径30mmの円で丸めた形状のイヤホンにおいては、本体6bは対応する形状で60mm×50mm程度のサイズである。後方遮蔽板6cは、外縁部から10mm程度内側に、耳介4と接触しないように8mmの高さとしている。また、反射板6dについても同様の考慮をして8mmの高さとしている。ここで、後方遮蔽板6cの傾斜は、理想的にはサインカーブの下降部分を引き延ばした形状であるが、直線であっても十分に機能する。
【0033】
ヘッドホンは一般的に装着時の負担軽減のため、総重量の軽減化が追求されている。ス
ピーカーグリルはダイヤフラムを保護する役割を担うことから、軽量かつ十分な強度を有する材質により形成されている。そこで、音像制御部6にも同じ性質が求められるので、適した柔軟性と強度のバランスを持つ素材として、熱可塑性樹脂のうちポリプロピレンやポリスチレン等が挙げられる。
【0034】
この音像制御部6は、単独ではヘッドホン用装着具として用いることができ、既成のヘッドホンに装着し、ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御することもできる。ヘッドホン用装着具は、外周部が既成のヘッドホンにおける音放射面であるダイヤフラム3に対応しており、本体6bの外周部をダイヤフラム3とイヤパッド5との間に挟み込んで保持するようになっている。
【0035】
ヘッドホン用装着具として供する場合は、既成のヘッドホンの様々なイヤパッドの形状に合わせて加工する必要があることから、イヤパッドやハウジングの形状やサイズに適合させるために、本体6bの外周部に少なくとも一部が切除されるマージン領域を設けると良い。この場合には、一般家庭で使用される鋏等の簡単な道具で容易に切断でき、かつ十分な耐久性をもった厚さを有することが必要であるため、材料としてはポリスチレンが好ましいと考えられる。
【0036】
次に、上記のような構成において、ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における音像の定位を制御する音像制御方法について説明する。
【0037】
図1において、後方音S1は後方遮蔽板6cにより耳介前方へ進んだのち、反射板6dにより反射され、正確な音の方向認識を得られる定位音となる。また、前方離散音S2も反射板6dにより反射され、定位音となる。更に、中央音S4及び放射前方音S5は開口部6aにより遮蔽されず、直接耳介に到達する。
【0038】
そのため、開口部6aは反射板6dの足元から開口し、後頭側に向かうに従い、幅を狭くしてゆく。また、後方遮蔽板6cは、後方音S1を前頭方向へ反射させるためイヤパッド5の隙間から立ち上がり、ダイヤフラム中心部でダイヤフラム3との垂直距離を最大にする必要があり、その結果、前頭側が開口したドーム状の形状を示す。
【0039】
本発明の音像制御方法においては、まず、ダイヤフラム3の耳介後方に対応する位置から耳介4に向かって放射される後方音S1は、音の方向定位を拡散させる非定位音であるため遮断し、耳介に到達させないようにする。
【0040】
次に、耳介前方に反射された後方音S1、及びダイヤフラム3の耳介前方に対応する位置から前頭方向に放射され、耳介4に到達しない前方離散音S2をともに反射し、耳介前方から耳介4に到達する反射前方音S3とし、定位音として利用する。
【0041】
更に、非定位音であるが高音の成分を多く含み、その利用が音質の維持に資する中央音S4、及び音の方向定位が集中する定位音であるダイヤフラム3の耳介前方に対応する位置から耳介に向かって放射される放射前方音S5を遮蔽せずそのまま耳介に到達させる。
【0042】
このように、高音を含む非定位音を利用しつつ、非定位音を定位音化して利用する音の制御を行う。
【0043】
そのため、まず後方遮蔽板6cにより、後方音S1を遮蔽し、耳介前方へ反射させ、次に、反射板6dにより、反射された後方音S1及び前方離散音S2を反射し、耳介4に反射前方音S3として到達させ、更に、開口部6aから中央音S4及び放射前方音S5を遮蔽せず耳介4に到達させる。このような方法並びに構造により音の制御を行う。
【0044】
上述したような音像制御方法を、ヘッドホン・スピーカーと耳介の空間における躯体構造及びヘッドホン装着具に適用することで、ヘッドホンの音質特性を維持したまま音像の点定位を得ることができ、音像解像度を向上させることができる。
【0045】
即ち、上記構成によれば、滲んでいたそれぞれの音源(例えば楽器)の音成分が1点にまとまり、即ち点定位し、他楽器との分離感が得られることに加え、音源の持つ周波数成分が点定位することにより、音像解像度が向上し、その楽器の原音に近似した音として聴取できるようになる。歌唱においても声質、唱法が明確となり、歌手の個性を認識できるようになる。
【0046】
以上のことから、コピー者は、リズムや強弱の置き方の他、奏法上の細かなニュアンスまで聴取できるようになり、本発明に拠らないときよりも多くのことを参照できるようになる。
【0047】
また、一般の楽曲聴取における音響効果としても、楽器音が点定位することにより、再生音全体に透明感が生じ、音楽上のアンサンブルの妙を感じ取れるようになる。更に、残響音の滲みもなくなり、クラシック音楽では録音ホール固有のより自然な反響感を得られるとともに、スタジオ録音では制作者の意図した空間表現を感じられるようになる。
【0048】
以上のように、本発明はヘッドホンという音響再生装置においても、その利便性を維持したまま、音像解像度を向上させることにより、スピーカー再生と同等の聴取・鑑賞を可能にさせることができる。
【0049】
次に、点定位によって音像解像度が向上する理由について詳しく説明する。
【0050】
自然界における音源は1つしかなく、聴取における方向認識は、音源と左右の耳介との距離の差によって生じる到達時間差により行われるとされている。
【0051】
一方、ステレオ音源再生において歌唱のように中心に定位させる場合は、同一音源を同時に同音量で左右再生する。自然界では生じ得ない人工的な音の加算合成を行って中央定位をしているのである。
【0052】
ステレオ・スピーカー・ユニットを聴取者の正面左右に配置すると、その音像は左右のスピーカーの間に、左右の音量差が生じるに従い、中央から離れ左右に分かれて定位する。
【0053】
聴取特性の研究から、正面から斜面左右からの音は、方向認識が最も正確にできるとされており、一般的に理想的なスピーカーの配置は、聴取者正面の30度ずつ左右に開いた延長線上とされている。
【0054】
これに対し、ヘッドホンによるステレオ再生の場合は、内蔵スピーカーが左右の耳介に正対した至近距離にあり、即ち聴取者にとっては直近真横からの音となる。聴取特性上は、方向認識が不正確な方向である(非特許文献1参照)。このため、左右の加算合成がスピーカーに比べ正確でなく、音源は一点に定位せず、分割してしまう。
【0055】
加えて、周波数によっても方向認識の分散が生じる(非特許文献2参照)ことから、分割した音がさらに広がりをもってしまう。
【0056】
これらのことから、視覚的な表現で例えれば、ヘッドホンの再生音はスピーカー再生の
ものに比べ、軽度な乱視と近眼で遠景を見るような感覚となり、音像は二重でかつ滲んだものとして聴取される。
【0057】
本発明により音像が一点に収束する、即ち点定位が得られると、音像が小さく一つにまとまり、周波数による滲みもなくなることから、原音に忠実な音となり、我々の知るところの楽器音として聴取できるようになり、さらに細かな演奏ニュアンスを鑑賞できるようになる。この原音再生と分離の効果により、同位置に定位させた音源であっても、楽器別の聞き分けが容易になる。
【0058】
しかも、残響音についても、大まかな感覚しか掴めなかったものが、それぞれの楽器の残響を聞き分けられるようになる。これが音楽全体の空間状況・表現の聴取へ導き、より深い音楽鑑賞を可能にする。
【0059】
尚、点定位の獲得は、ヘッドホンならではの音源の近さと相まって、視覚的に言えばルーペを用いた音観察が可能になるため、ボーカルであれば、発声、強弱、息継ぎ等の細かなニュアンス、ドラムセットの位置関係やバチ使い、さらに打音に付加された残響音の速さと広がり、ベースの指使い等をつぶさに感じ取ることができるようになる。
【0060】
一方で、点定位により音のエネルギー感も密になり、ベースやバスドラムのような低音はよりリズム圧を高め、スネアドラムのような音の切れが持ち味の音源の場合は、その立ち上がりと減衰がシャープに表現される。弦楽器も摩擦音ならではの倍音をしっかりとまとい、ふくよかながら表情豊かな音へと変わる。
【0061】
加えて、音の分離の余禄として、演奏者の息遣いが明らかでリアルなものになる他、ライブ録音での反響音や拍手のリアルさ加わる等、臨場感を高める効果がある。
【0062】
従って、モニターの用途に限れば、本発明はヘッドホンをして、スピーカーを上回る性能を付与するものと言い得る。
【0063】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することが可能である。
【0064】
<変形例1>
例えば、後方遮蔽板6cは、図3に示したように上縁部がなだらかに反射板6dに接する形状を例に取ったが、図5に示すような半ドーム状の後方遮蔽板6c’であっても実質的に同様な作用効果が得られる。
【0065】
<変形例2>
図6は、図1に示した音像制御部の更に他の構成例を示している。上述した実施形態では、図6(a)に示すように本体6bに立設する反射板6dが、本体6bに対して約90度の例について示したが、反射板6dの角度は90度に限定されるものではない。本発明者の実験では、反射板6dの角度を、図6(b)に示すように、耳介前方に60度程度の斜度を持つように寝かせたところ、定位性が向上したように感じた。
【0066】
尚、図6(a),(b)において、矢印で示した数値は、実験した音像制御部の各サイズをミリメートルで表したものである。
【0067】
この場合、反射板6dにより反射され耳介前方から耳介に到達する音は、ダイヤフラムの耳介後方部分から放射された音のうち、実線で示すようにダイヤフラム面に対し垂直に放射される直進音であると考えられる。一方、破線で示すダイヤフラム面の垂直に対し角
度をもって傾斜音は、直進音の空気伝播である。傾斜音よりもダイヤフラムの水平運動により直接的に生じる直進音の音量ほうが大きいことは、経験においてもスピーカー・ユニット正面位置の音量が、左右にずれた位置の音量より大きく感じられることから明らかである。斜度の設定は定位音の加増に資するものと推測される。
【0068】
よって、反射板6dの角度は、必要とする音響特性や聴取者に合わせて設定すれば良く、角度を可変できるように構成しても良い。後方遮蔽板6cの傾斜角も同様であり、上述した実施形態の角度(構造)に限定されるものではなく、必要とする音響特性に合わせて設定すれば良い。
【0069】
<変形例3>
また、音の反射効率に主眼を置き、音質の向上を図るのであれば、反射板6dの素材に金属を用いることもできる。本発明者の実験によると、バイオリン演奏の場合、何も措置しない状態では、記号論的なニュアンスであったのに対し、本発明を適用して樹脂製の反射板を設けた場合には、点定位により倍音(高音)が出てくるので、弓捌き(腕使い)が目に浮かぶような聴感になった。樹脂製に代えて金属製の反射板では、更に定位性と倍音が増し、弓の擦れ具合(弓と弦の摩擦音)が生音に近づいた。このように、金属製反射板を用いることで、聴取感を定位・音質とも樹脂の場合よりも大幅に向上できる。
【0070】
尚、金属製の反射板を用いる場合には、聴取者の耳介に直接触れる可能性のある端部や角部を丸めたり、ゴム等の柔らかい素材で覆ったりするなどして、安全性に配慮した対策を施すと良い。また、反射板6dを樹脂で形成し、反射面に金属板を接着しても同様な作用効果が得られる。
【0071】
<変形例4>
図7(a),(b)はそれぞれ、図1に示した音像制御部6の別の構成例を異なる角度から見た斜視図である。本変形例4では、音像制御部6の本体6b’の外周部がダイヤフラム3に対応した形状を有し、ダイヤフラム3をドーム状に覆うように形成される。この本体6b’は、耳介の中央近傍に対応する位置から耳介の前方に至る開口部6aを有し、ダイヤフラム3の耳介後方に対応する位置が後方遮蔽板6cとして働く。また、反射板6d’は、円弧形状であり本体6b’に開口部6aを挟んで立設されている。
【0072】
このような構成であっても、上述した実施形態並びに変形例1〜3と実質的に同様な作用効果が得られる。しかも、上記構成では、円弧最上部は耳介の窪み(外耳道口)に対向するので、耳介との接触を抑制して安全性を高めることができる。また、反射板6d’を円弧形状にすることで、長方形の反射板6dに比して中央部からの反射音量を増大させることができる。
【0073】
<変形例5>
図8(a),(b)は、それぞれ図1に示した音像制御部6の更に別の構成例を異なる角度から見た斜視図である。本変形例5では、音像制御部6の本体6b’の外周部がダイヤフラム3に対応し、ダイヤフラム3をドーム状に覆うように形成されている。そして、本体6b’の反射板6d’に接する一部領域6eを平面にしている。
【0074】
他の構成は、図7(a),(b)に示した変形例4と同様であるので、同一部分に同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0075】
このように、ドーム状の本体6b’の一部領域6eが平面であっても、上述した実施形態並びに変形例1〜4と実質的に同様な作用効果が得られる。しかも、変形例4と同様に、円弧最上部は耳介の窪み(外耳道口)に対向するので、耳介との接触を抑制して安全性
を高めることができる。また、反射板6d’を円弧形状にすることで、長方形の反射板6dに比して中央部からの反射音量を増大させることができる。
【0076】
<変形例6>
上述した実施形態やその変形例1〜5では、音像制御部6が一体的に形成されている例について説明したが、後方遮蔽板6c、反射板6d及び開口部6aの機能を実現できれば、幾つかの部品を組み合わせる組み立て式にすることもできる。勿論、ハウジング1aの一部を後方遮蔽板6cや反射板6dに利用したり、後方遮蔽板6cや反射板6dと一体化したりしても構わない。
【符号の説明】
【0077】
1:ヘッドホン本体
1a:ハウジング
2:スピーカー(ヘッドホン・スピーカー)
3:ダイヤフラム
4:耳介
4a:外耳道
5:イヤパッド
6:音像制御部(ヘッドホン用装着具)
6a:開口部
6b,6b’:本体
6c:後方遮蔽板
6d,6d’:反射板
6e:一部領域
S1:後方音
S2:前方離散音
S3:反射前方音
S4:中央音
S5:放射前方音
【図1】
音像制御方法 図1
【図2】
音像制御方法 図2
【図3】
音像制御方法 図3
【図4】
音像制御方法 図4
【図5】
音像制御方法 図5 
【図6】
音像制御方法 図6 
【図7】
音像制御方法 図7 
【図8】
音像制御方法 図8 
ページtop へ