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健康・医療
 
【考案の名称】寝具
【実用新案権者】
【識別番号】523142995
【氏名又は名称】山本 馨
【住所又は居所】北海道札幌市厚別区厚別中央3条2丁目12-1 ラークヒルズ札幌713号室
【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
【考案者】
【氏名】山本 馨
【住所又は居所】北海道札幌市厚別区厚別中央3条2丁目12-1 ラークヒルズ札幌713号室
【要約】
【課題】より容易に製造でき、睡眠障害を改善することができる寝具を提供する。
【解決手段】睡眠障害を改善するための寝具1は、少なくとも一部が大麻繊維を含む構造を有し、睡眠障害を有する患者が当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合が、当該寝具を使用しない場合と比較して減少し、かつ/又は、患者が当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合が、当該寝具を使用しない場合と比較して増加する。
【選択図】図1
選択図
【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が大麻繊維を含む構造を有する、睡眠障害を改善するための寝具であって、
睡眠障害を有する患者が当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合が、当該寝具を使用しない場合と比較して減少し、かつ/又は、
前記患者が当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合が、当該寝具を使用しない場合と比較して増加し、
当該寝具は、枕カバー、布団カバー、シーツ又はパジャマである、
寝具。
【請求項2】
当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合(%)が、当該寝具を使用しなかった場合と比較して3〜10ポイント増加する、請求項1に記載の寝具。
【請求項3】
当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合(%)が、当該寝具を使用しなかった場合と比較して3〜10ポイント減少する、請求項1に記載の寝具。
【考案の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本考案は、寝具に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠には、心身の回復、記憶の定着、免疫機能強化等の役割があるとされており、質の良い睡眠を十分にとることは、健康を保つうえで極めて重要である。しかし、現在、成人の30〜40%が何らかの睡眠障害を有すると言われている。睡眠障害とは、睡眠に何らかの問題がある状態のことをいい、具体的には、不眠症、過眠症、ナルコレプシー、概日リズム睡眠覚醒障害等が挙げられる。中でも不眠症が多く、日本人成人の約20%が慢性的な不眠症であると言われている。
【0003】
不眠症の原因は、不安、緊張、ストレス等の心的要因、薬剤の副作用、他の心身疾患によるもの、運動不足等、多岐にわたる。不眠症は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒及び熟睡障害に大別される。不眠症の原因及び不眠症の種類により、睡眠導入剤、睡眠薬、安定剤等の薬物療法、生活習慣の見直し、サプリメントの服用、ストレス解消等、様々な対処法が用いられている。しかし依然として不眠症に苦しんでいる患者は多く、有効な不眠症の改善策が求められている。特許文献1には、シソ発酵抽出物を含む睡眠障害の予防、改善または治療組成物が記載されており、当該抽出物で染色された寝具が開示されている。しかし、効率的に抽出するには有機溶媒が必要であり、菌による発酵が必要であるため、製造の手間がかかり、コストも高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特表2021−504441号公報
【考案の概要】
【考案が解決しようとする課題】
【0005】
本考案は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より容易に製造できる、睡眠障害を改善することができる寝具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本考案の睡眠障害を改善するための寝具は、少なくとも一部が大麻繊維を含む構造を有し、
睡眠障害を有する患者が当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合が、当該寝具を使用しない場合と比較して減少し、かつ/又は、
前記患者が当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合が、当該寝具を使用しない場合と比較して増加する。
【0007】
前記寝具は、枕カバー、布団カバー、シーツ又はパジャマである、こととしてもよい。
【0008】
また、当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合(%)が、当該寝具を使用しなかった場合と比較して3〜10ポイント増加する、こととしてもよい。
【0009】
また、当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合(%)が、当該寝具を使用しなかった場合と比較して3〜10ポイント減少する、こととしてもよい。
【考案の効果】
【0010】
本考案によれば、より容易に製造でき、睡眠障害を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態に係る寝具の概略図である。
【図2】実施例2における寝具不使用時の代表的な睡眠履歴を示す図である。
【図3】実施例2における寝具使用時の代表的な睡眠履歴を示す図である。
【考案を実施するための形態】
【0012】
本考案の実施の形態に係る寝具は、任意の種類の寝具であってもよいが、例えば枕カバーである。寝具が枕カバーである場合を例として、図面を参照して説明する。図1は、実施の形態に係る寝具1の概略図である。
【0013】
寝具1は、少なくとも一部が大麻繊維を含む構造を有する。大麻(アサ、ヘンプ、Cannabis sativa)はアサ科アサ属の一年生草本である。大麻は、一般的に“麻”と呼ばれているアマ科アマ属の亜麻(リネン、Linum usitatissimum)、及びイラクサ科カラムシ属の苧麻(ラミー、Boehmeria nivea)とは異なる植物である。大麻は、葉及び花に抗精神効果があるテトラヒドロカンナビノールが含まれており、薬物又は医療用としてよく知られている。一方、本実施の形態に係る寝具に使用される大麻繊維の原料となる大麻の茎にはテトラヒドロカンナビノールが含まれておらず、日本においても規制の対象ではない。
【0014】
寝具1に使用される大麻繊維の原料となる大麻は、フランス産、中国産等の任意の大麻であってもよい。日本では許可を受けた者のみが大麻を栽培することができる「大麻取扱者免許制度」があり、国産大麻から作られた大麻繊維を入手するのが困難であるが、国産大麻から作られた大麻繊維を使用するのが最も好ましい。
【0015】
大麻繊維は、単独で、又は他の繊維と組み合わせられて、織布を構成する。寝具1は、全部又は一部が当該織布で構成され、全体として枕カバーの形状として構成される。
【0016】
寝具1は一部が大麻繊維で構成されていてもよいし、全体が大麻繊維で構成されていてもよい。寝具1は、全体の少なくとも30%が大麻繊維で構成されている。好ましくは全体の少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%が大麻繊維で構成されている。また、寝具1において、使用者の頭を直接載せる部分が大麻繊維であるのが特に好適である。
【0017】
寝具1の形状は、枕の少なくとも一部を覆うことができる形状であればよく、一般的に枕カバーとして使用される形状であるのが好ましい。例えば、図1に示されるような袋状であってもよい。寝具1が袋状の枕カバーである場合、枕を出し入れするための開口部11を備える。図示されないが、寝具1は、枕に巻き付けて使用する形状の枕カバーであってもよいし、単に枕の上に載せて使用する形状であってもよい。
【0018】
寝具1は、大麻繊維を含む織布で構成された部分の他に任意の素材からなる部分を備えていてもよい。例えば、寝具1が袋状である場合、枕を収納した後に開口部11を閉じるためのジッパー、面ファスナー、ボタン、スナップ等の部材を備えていてもよい。寝具1が枕に巻き付けて使用する形状又は枕の上に載せて使用する形状である場合、枕からずれないようにするための任意の部材を備えていてもよい。また、装飾として、フリル、レース等を備えていてもよいし、刺繍、アップリケ等が施されていてもよい。これらの部材または装飾は、綿、絹、ポリエステル等の大麻繊維以外の繊維で形成されたものであってもよいし、樹脂、金属等の素材で形成されたものであってもよい。
【0019】
後述する実施例に示すように、寝具1の使用により睡眠障害を改善することができる。睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠に大別される。レム睡眠は、急速眼球運動(rapid eye movement、REM)が見られる睡眠である。レム睡眠中は交感神経が優位であり、眼球運動だけでなく、呼吸、脈拍及び血圧が不規則に変化する。脳は覚醒した状態であるため、複雑な夢を見る段階である。レム睡眠は、筋肉の疲労回復に重要な役割があるとされている。ノンレム睡眠は、レム睡眠以外の睡眠をいう。ノンレム睡眠中は副交感神経が優位であり、心拍数は安定し、深くゆったりとした呼吸になる。ノンレム睡眠は、睡眠の深さ(脳波の活動性)により複数の段階に分けられる。本明細書では、浅いノンレム睡眠を「コア睡眠」、深いノンレム睡眠を「深い睡眠」という。深い睡眠は、脳の休息、成長ホルモンの分泌等に重要な役割があるとされている。
【0020】
本明細書において、就寝から起床までの時間を「全就寝時間」という。全就寝時間は、入眠できなかったり睡眠の途中で目が覚めてしまったりする状態を表す「覚醒」、前述の「レム睡眠」、「コア睡眠」及び「深い睡眠」に分類される。理想的には、全就寝時間における覚醒の時間の割合は0〜数%、レム睡眠の時間の割合は約25%、コア睡眠の時間の割合は約55%、深い睡眠の時間の割合は約20%である。しかし、睡眠障害を有する患者の大部分は、覚醒している時間の割合が多い、深い睡眠の時間の割合が少ない、レム睡眠とノンレム睡眠が規則正しく繰り返されていない等の睡眠状態になっている。したがって、覚醒している時間又は回数の減少、レム睡眠及び深い睡眠の時間又は回数の増加、ならびにレム睡眠とノンレム睡眠の規則正しい繰り返しは睡眠の質又は量の向上を表し、睡眠障害を改善することにつながると考えられる。
【0021】
睡眠障害を有する患者が寝具1を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合は、当該寝具を使用しない場合と比較して減少する。本明細書では、寝具1を使用しなかった場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合(%)と当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合(%)の差を「ポイント」で表す。寝具1を使用した場合に減少する覚醒している時間の割合は、少なくとも3ポイント、3〜15ポイント、3〜10ポイント等であり、好ましくは少なくとも5ポイントである。
【0022】
患者が有する睡眠障害が、覚醒している時間の割合に関する障害ではなく、例えば、覚醒している時間又は覚醒の回数は少ないが深い睡眠の時間の割合も少ない等であった場合は、寝具1を使用しなくても覚醒している時間の割合は多くない場合がある。その場合は、寝具1を使用しても、当該寝具を使用しなかった場合と比較して覚醒している時間の割合が大幅に減少するわけではない。その場合、寝具1を使用した場合の全就寝時間に対する覚醒している時間の割合は、10%未満、0〜10%、0〜5%等であり、好ましくは5%未満である。
【0023】
睡眠障害を有する患者が寝具1を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合は、当該寝具を使用しなかった場合と比較して増加する。本明細書では、寝具1を使用しなかった場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合(%)と当該寝具を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合(%)の差を「ポイント」で表す。寝具1を使用した場合に増加する深い睡眠の時間の割合は、少なくとも3ポイント、3〜15ポイント、3〜10ポイント等であり、好ましくは少なくとも5ポイントである。
【0024】
患者が有する睡眠障害が、深い睡眠の時間の割合に関する障害ではなく、例えば入眠障害等であった場合は、寝具1を使用しなくても深い睡眠を十分に確保できている場合がある。その場合は、寝具1を使用しても、該寝具を使用しなかった場合と比較して深い睡眠の時間の割合が大幅に増加するわけではない。その場合、寝具1を使用した場合の全就寝時間に対する深い睡眠の時間の割合は、15%以上、15〜20%、15〜25%等であり、好ましくは20%以上である。
【0025】
睡眠障害を有する患者が寝具1を使用した場合、当該寝具を使用しなかった場合と比較して、全就寝時間中にレム睡眠とノンレム睡眠とをより規則正しく繰り返す。
【0026】
別の実施の形態では、寝具は、布団カバー、シーツ又はパジャマ等の他の寝具であってもよい。寝具は、全部又は一部が大麻繊維を含む織布で構成され、全体として寝具の形状として構成される。たとえば寝具が布団カバー、シーツ又はパジャマである場合、寝具の形状が一般的に布団カバー、シーツ又はパジャマとして使用される形状であることを除き、上述の実施の形態に係る寝具1と同様である。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
国産大麻の茎から採取した大麻繊維を原料とする織布を用いて、睡眠障害を改善するための寝具を作製した。当該寝具は、枕に載せて使用することができる枕カバーであり、縫合糸を除き、大麻繊維からなる織布で構成されている。
【0028】
(実施例2)
6名の不眠症患者に実施例1で作製した寝具を提供し、当該寝具の不使用時と使用時との睡眠履歴を比較した。睡眠段階を正確に判定するには脳波を測定する必要があるが、体動及び心拍数からある程度正確に睡眠段階を推定することが可能である。本実施例では、患者はApple Watch(商標、Apple社製)を腕に装着して就寝し、Apple Watch(商標)に搭載された睡眠アプリを使用して睡眠段階を測定した。Apple Watch(商標)は、搭載された加速度センサー及び心拍数センサーにより体動及び心拍数をモニタリングし、全就寝時間中の睡眠段階を「覚醒」、「レム睡眠」、「コア睡眠」及び「深い睡眠」の4段階で判定することができる。
【0029】
(結果)
6名の不眠症患者のうち、28歳の女性患者の寝具不使用時の代表的な睡眠履歴を図2に、同一の患者の寝具使用時の代表的な睡眠履歴を図3に示す。寝具不使用時は、就寝時間中に何度も覚醒し、深い睡眠はほとんどなかった。一方、寝具使用時は、不使用時と比較して、全就寝時間に対する覚醒している時間の割合及び覚醒の回数が大幅に減少し、深い睡眠の時間の割合及び深い睡眠に至る回数が増加した。また、寝具不使用時は、レム睡眠及び深い睡眠が極めて少なく覚醒とコア睡眠を繰り返しているのに対し、寝具使用時は、レム睡眠とノンレム睡眠(コア睡眠及び深い睡眠)とを規則的に繰り返した。
【0030】
図2、図3における各睡眠段階の割合を表1に示す。寝具使用時は、不使用時と比較して、全就寝時間に対する覚醒している時間の割合が6ポイント減少し、深い睡眠の時間の割合が6ポイント増加した。また、レム睡眠の時間の割合が大幅に増加し、コア睡眠の時間の割合は減少した。他の5名の被験者も類似した結果であった。
【0031】
【表1】000003
【0032】
「レム睡眠」中は、脳は覚醒しているが筋肉は弛緩しており、身体の回復、記憶の整理・定着等に重要な役割を果たすと考えられている。「コア睡眠」及び「深い睡眠」は、脳を休め回復させるための睡眠であるとされており、深い睡眠により熟眠感が得られる。睡眠の質は、深い睡眠の長さ、睡眠サイクルの安定性等により総合的に判断される。したがって、当該寝具の使用により睡眠の質が向上したことが示され、当該寝具は睡眠障害の改善に有用であることが示唆された。さらに、睡眠の質及び量の向上により副交感神経が優位になり、自律神経の失調が原因とされる諸症状、例えば、疲労感、頭痛、下痢、便秘、情緒不安定、鬱、ひいては不妊症等の緩和又は治療にも効果がある可能性が考えられる。
【0033】
(実施例3)
老健施設において、合計100名の不眠症患者及び健常者に実施例1で作製した寝具を提供し、その効果を調査した。これらの被験者の中には、寝具不使用時は夜間徘徊する者もいた。
【0034】
(結果)
睡眠の質、量、又はその両方が向上したことを9割以上の被験者が報告した。夜間徘徊していた被験者は就寝中にそのような行動をすることがなくなった。
【0035】
(実施例4)
認知症と診断され、向精神薬及び睡眠薬を数種類服用していた患者(93歳の男性及び88歳の女性)に、実施例1で作製した寝具を提供し、その効果を調査した。診察時にこの2名の患者は昼夜逆転しており、通常の生活リズムを取り戻すことを目標としていた。
【0036】
(結果)
当該寝具の使用に加え、抗不安薬であるエチゾラム1mgを就寝前に服用することにより夜間に質の良い睡眠をとることができ、寝具の使用開始から1週間後には通常の生活リズムを取り戻すことができた。2名ともそれまで服用していた向精神薬及び強い睡眠薬の服用中止に至った。これらの結果から、当該寝具は認知症における睡眠障害の改善に有効であることが示された。また、認知症の発症以前から当該寝具を使用することにより、認知症における睡眠障害を予防できる可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本考案は、睡眠障害の改善に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 寝具
11 開口
【図1】
図1
【図2】
図2
【図3】
図3
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